定置網から里港までの船上は、3人の漁師さんを先生役にして魚の料理教室に化しました。
「船の上でよく食べるのは背切りだよ。マアジ、マサバ、クロ、イサキ、カマス、スズメダイ、タチウオなどで作る。ヒレとハラワタを取り除くだけで、中骨ごと薄く切っただけで、醤油をたれにして食べるんだ。骨から旨味が出てきてうまいもんだよ。背切りでも、刺身でも、島ではタマネギやダイコンの細切りをあてにして食べることが多いな」
背切りは背越しと呼ばれ、全国の多くの浜で食べられている。しかし、タマネギやダイコンのあてとは初耳です。
続いて、ウロコもハラワタも取り除かずに焼くイスズミの丸焼き、キビナゴの茶漬けなど、島ならではの伝統料理を次々に教えてくれました。
しかし、北甑島の魚料理でもっとも興味深いのは、皮付きの身の外側だけを焼いて、刺身のように食べる焼き切りです。古くから薩摩半島から高知県にかけての浜に伝わり、土佐造り、つまりカツオのたたきの原形とされる料理法です。島ではこれを「焼っ切り」と発音します。
「島の人は焼っ切りにうるさいよ。ウロコを少し残して焼く。こうすると風味がぐっと高まるんだ。これを醤油で食べるんだ。土佐造りは氷で締めるけど、焼っ切りはぬくいままで食べる人が多いね。イシダイやサンキチ(ニザダイ)、フエフキダイ、イスズミなどの磯魚のほか、サバやヒラマサ、ブリなどの青魚でよく作るよ」
この島の魚料理を知り尽くすには、一度や二度の訪問ではとてもかなわないようです。 |