タイトル写真提供 : 斉藤 高根氏

瀬戸内海のマダコがおいしいわけ
 

 瀬戸内海産のマダコは味がよいことで知られています。いくつの理由はが考えられます。海底の地形が複雑で、マダコの餌になる生物が多く生息していること。水深や潮流の影響によって夏涼しくて冬暖かく、気候条件がマダコの生息が適していること。また、蛸壺漁で多く獲られ、生かされたまま水揚げされること。加えて、瀬戸内地方のマダコ料理が卓越し、産地で味わった人が「瀬戸内海のマダコはうまい」と評価することも、ここのマダコの名を高める一因になっています。

     蛸壺漁はマダコの警戒心を逆手に取った、すぐれた伝統漁法です。ほとんどの海の生物は、敵から防御するためのウロコや殻を備えています。マダコなどタコの仲間にはそれがありません。あのとおりのむきだしの体ですから、天敵のマダイやウツボの鋭い歯でやられたらひとたまりもありません。マダコがよほど用心深いのはそのためです。昼間は岩のあいだにひそみ、夜になると長い腕を巧みに使ってエビやカニなどをからみとります。    

 そんな小心者にとって、目の前に現れた蛸壺は格好の隠れ家。ところが、壺の底にじっとひそんでいると、わが家ごと獲られてしまうことになります。

 


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取材:野村祐三