化粧で美しくなる

 

「この貝は出荷前が大変
なんだ 」

 翌年の5月から6月にかけて、直径5 〜 6センチに育った貝を黒い丸籠に移して海中へ吊します。それから出荷を始める11月まで、何も手を加えません。聞いているといかにも楽そうですが、「ヒオウギガイは、出荷前の作業がひと仕事」ということでした。

 ヒオウギガイの人気の理由は、一つは殻の鮮やかな色にあります。ぼくはもともとから美しいものと思い込んでいましたが、そうではありませんでした。作業場に積まれた水揚げ直後のヒオウギガイの殻には、フジツボなどの小貝が付着し、色もややくすんでいました。それを一つ一つグライン ダーで磨きをかけ、あの鮮やかな色合いを引き出すのです。このグラインダーがけを見物しましたが、なるほどひと仕事でした。

化粧前のヒオウギガイ 磨かれると一段と映える

「化粧しなければ美しくならないのは、女性と同じだよ」と梶脇さんは笑い、続いて「この貝が魚みたいに即出荷できるなら、こんな楽なことはないんだけどなあ」とぼやくのでした。


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